日常の罠
買い物に行くと、目立つ棚には高額商品が陳列されている。これらの商品とワゴンなどの商品を比べると、すべてが安く感じてしまう。先に与えた情報によって判断を狂わす。この最初のダミー情報を心理学では「アンカー(アンカリング)」と呼ぶ。最初に与えられた情報が基準となり判断を誤らせる効果は、日常の販売戦略でよく使われている。「通常1万円のところ、今日は5000円引き」といわれると、得した気持ちで買ってしまうことがある。最初の1万円が適正かを考えもせずに、頭の中はそれが基準になってしまっている。「数量限定」「本日限り」と最初にいわれると、もう買い物モードに入ってしまう。ここにもお得感を感じるのである。
近ごろはインターネットで事前に価格を調べ、他社と価格を比較できる。そこで最安値の店を見つけると、今度は「なぜこんなに安いのか」と思ってしまうのも、人間の業である。「キロ500円が平均なのに300円と200円も安い。これは賞味期限が近いのか、それとも似て非なるものか」。安ければ安いで疑ってしまう。ポイントという罠もある。この店に行けばポイントが付く。しかし、ポイントは使わなければ意味がない。ただ、溜めるだけで期限が切れることもある。
テレビを買い替える際、お店に行くと店員さんから「大画面は迫力がありますよ」と勧められる。店内の画面の小さいテレビと比べると、大画面の方が画像はきれいなので大きな画面の液晶テレビに買い替える。ところが、狭い部屋に大画面のテレビは不釣り合いで落ち着かず、目玉があっちこっちに忙しく動いて疲れるだけ。店員さんは多少でも高い商品が売れて喜んでいるのだろうが、こちらは「画面の大きさと電気代は比例するのかな」と今日もぼやいている。
通販番組も鬼門だ。「30分以内にお電話いただいたお客様だけの価格です」といわれると、財布のヒモが緩む。しかも、「商品をもうひとつサービス」と畳みかけられると、「え、ふたつで」と感動する。サービスではなく買うのだが。そもそも「定価〇〇引き」の定価とは何か。定価とは一般にメーカーの定めた税込価格。希望小売価格はメーカーが希望する価格で、この価格で売って欲しいという要望である。メーカーが卸値だけ決め、販売価格を小売店に一任するのがオープン価格。参考小売価格というややこしいものもある。だが、価格よりも大切なのは本当に必要なのか否かを見極めることだ。
<レーダーより>